現場最前線
裁判員裁判 問われる弁護人の力量
2009年5月21日から、一定の重い罪については、国民が裁判に参加するという裁判員裁判の制度が始まり、11年経過した現在、裁判員裁判は刑事裁判制度として国民の間に定着した感があります。
裁判員制度の対象となる事件は、死刑または無期懲役の場合や、故意に人を殺害した場合ですが、特に無期懲役が定められている事件というのは意外と幅が広く(放火や通貨偽造など)、多くの事件が裁判員制度の対象とされているのです。
裁判員裁判で特徴的なのは、当事者双方が昔の刑事裁判と異なる審理のやり方をするということです。
例えば、検察官は、冒頭陳述において、裁判員にわかりやすいように、ポイントを記載したメモを配布して事件の概略を述べたりします。また図面を法廷のディスプレイ画面を用いて説明したりします。また、弁護人も、今までは単に書面に書いた意見を読み上げていただけであったのに対し、法廷の真ん中に立って、裁判員とアイコンタクトをとりながら弁論をしたりします。これらは、いずれも裁判員にわかりやすく説明をするための方策です。
もっとも、それだけに、いざ裁判員裁判ということになってしまった場合には、弁護人の力量が問われることになるでしょう。
裁判員裁判では、職業裁判官のほかに一般市民のみなさんが裁判に参加します。そのため、公判期日は3、4日程度で終結することが予定され、迅速な審理が行われます。例えば、裁判員裁判が始まる前は、証人尋問が行われれば、その証人尋問の調書が完成するのを待って次の手続を準備するというやり方でした。しかし裁判員裁判では、3、4日程度で判決を言い渡さないとといけないため、調書の完成など待っていられません。裁判員は、証人尋問を見て、聞いて、その直後に、自分の記憶や印象をもとに、判断することが求められるのです。そうすると、弁護人が裁判員の印象に残る証人尋問や弁論を行うことが極めて重要になるのです。
多くの法律家は、裁判員裁判前の刑事裁判のやり方に慣れてきたため、裁判員を意識した分かりやすく簡潔な証人尋問や新しい弁論のやり方に対応でていないように思われます。証人尋問では、小さな声で、要領の得ない内容を証人尋問してしまい、裁判員に退屈されてしまうというケースも見受けられます。
国民の司法参加という、極めて重要な意義を担う裁判員裁判ですが、実践の場で勝てるかどうかは、ひとえに弁護士の腕次第と言えましょう。私たち弁護士は刑事裁判手続きで被告人の権利を守れるよう常に研鑽しなければなりません。
2020年8月